2026-04-16

お役立ちコラム

線量管理と診断参考レベル

 私が放射線科医になった30年以上前、CTX線管は貧弱で、よほどスリムな患者さんでない限り画質は常にザラザラ、CTの新機種の売り文句の一つには必ずと言ってよいほどX線管パワーアップによる画質向上や速度向上が挙げられており、基本的には線量を高めればそれに見合った診断能向上すなわち最適化が得られた時代であった。しかしパワーが向上し続けた結果、いつしか線量増加による画質向上は頭打ちとなり、多少線量を下げても診断能が低下しない状況に陥って、何も考えずに線量を下げれば最適化が進む時代に移行した。そして日本の診断参考レベルが2回目の改定を終えた今、ただ下げればよかった時代は過ぎ去った可能性が高まっている。

 DRLs 2025のための線量調査では多くのプロトコルにおいてDRLs 2020時点よりも線量が低下しており、結果としてDRL valueも低下することとなった。各施設における最適化が順調に進んだ結果でもあることを喜ばしいと感じはするものの、一方で「画質が悪くなって困る」という類の話が耳に届くこともあるので、診断能が担保されないような撮影条件変更が生じ始めていることを現実問題として考慮しなければならないだろう。線量管理の専門家である我々は、最適化の意味合いを見つめ直す必要がある。

 最適化の目指すところは、患者さんの損益バランスを向上することである。撮影条件を変更することにより情報量や被ばく量が変化するとしたら、その変化によって得た利益が損失を上回ってこそ最適化が進んだといえよう。一般論として、放射線診療で得られる情報の価値は非常に高く、病態や病勢の把握から治療方針決定や効果判定、さらには予後やQOLの向上まで、患者さんが直ちに得るものは具体的かつ大きい。一方、放射線診療による被ばくで失う価値は非常に低く、発がん確率は0ではないものの非常に小さい上に、発生するのは何年も後の話である。従って、画質や診断能がわずかでも損なわれた場合、これを埋め合わせるほどの利益を被ばく低減による発がん確率低下で補おうとしても難しい。このことを忘れて、画質はわずかに低下したけれども、被ばくは大幅に下がったので、差し引きすれば利益の方が大きい、などという計算間違いを犯さぬよう心がけたい。

 適切な線量管理や診断参考レベル活用には、自施設の放射線診療の状況を適切に把握することが不可欠であり、そのうちの一つが自施設の線量集計結果とDRL valueとの比較である。汎用の表計算ソフトウェアを用いて集計する場合は、連続30例を収集するなどバイアスが比較的少ないサンプリングを実施し、DRL quantityを集計して中央値を算出し、DRL valueと比較すればよい。専用の線量管理アプリケーションが導入されているならば、作業の大半が自動化できる上に、DRL valueとの比較だけでなく、他施設と自施設の違いを知ることで最適化に役立てる機会を増やせるだろう。このDRLを活用した最適化推進の上で重要なのは、DRL valueを下回ることを目標にしないことである。DRL valueはあくまでも自施設のおよその順位を知るための物差しであって、順位を知った上で行われる最適化作業の評価や目標にDRL valueを用いるのは最適化の目指すところに反する。すなわち、診断能担保を損なわず無理のない範囲で可能な限り線量を下げる、という工程にDRL valueが使われる余地はない。DRL valueを下回るまで無理にでも線量を下げる、という方針で多くの施設が撮影条件変更を行ったら、DRL改定のたびに診断能を損ねる施設が際限なく増えてしまう。同一の線量管理アプリケーションを導入した施設間で線量を比較する場合においても、同じ種類の危険があることを意識し、適切にアプリケーションを活用していきたい。

国際医療福祉大学 医学部 教授
赤羽 正章 先生

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